くずみーのくずかご

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メンタルクリニック体験記

 僕は中学生くらいからずっと死にたいと思っている、死にたさ歴10年以上の人間だ。これまではそれが普通の(ただネガティブなだけの)感情だと思っていたのだが、年を重ねて周りを色々見たり、メディアから聞こえてくる声を聞いたりしているうちに、死にたいと思い続けていることはもしかして異常なのではないかと思い始めるようになった。病院に行くのは怖かったし、勇気を振り絞って電話しても予約がいっぱいで受け付けてもらえなかったので自分で知識を蓄えて何とかしようとしてみたが、認知療法の適応的思考(状況を書きだしてネガティブに支配されていない客観的な考えを書く)で「死ねば全部解決じゃん」としか考えられなくなったので、自己流に限界を感じてしまった。

 これは何としても病院にいくしかないと考え、その念願がかなったので、記録しておこうと思う。

 

 まずは病院で治療を受けられる権利を得る必要があった。というのも、精神を治療するにあたって、病院選びと予約という2点を何とかする必要があった。

 精神の病気は普通の病気とは違って、医者(とその治療方針)との相性が合うかどうかという大きな壁がある。はずれの医者を引くことは症状の改善どころか大きな後退をもたらす可能性があるのだ。したがって、複数ある精神系の病院の中でも口コミ評価の高い病院を選ぶ必要があった。その他の悪い評価がついている、もしくは評価そのものがついていない病院は選択肢からは消えていった。さらに、HPで病院の治療方針なども確認していると気になる部分も出てくるので選択肢がどんどん減っていく。

 人間やはり考えることは同じで、良さそうな病院は完全予約制のところがほとんどであり、予約がいっぱいだ。飛び込みで行けるようなところはないのかと考えたりもしたが、「人がいないから飛び込みを受け入れられるのでは?」という邪推が邪魔をして、結局完全予約制の口コミ上位2院しか選択肢に含まれなかった。その結果、2軒電話して、断られて終わり、ということが続いた。割と勇気を出して病院に電話しているのだが、その結果得られるのが「予約すら得られない」という現実。“一か月先”といったような具体的な数字がなく、「今は予約でいっぱいなので受付を行っていない」という回答は、僕を絶望させるには十分な攻撃力を持っていた。僕は治療を受けることすらできないのだ、と嘆いた。

 

 病院に電話し、断られ、絶望してしばらく期間が空き、また限界が来て病院に電話し…ということが何度か続き、また限界が来たので、ついにやっていられなくなり、口コミ順に片っ端から電話をかけたところ、予約制をとっていない病院にヒットしたので、レビューを確認すると1、2件であるがいいレビューがついていた。ここに行こうと決めた。

 

 電話口で教えてもらった、混んでいない時間帯に行くために時間休を取って病院に向かった。看板には内科・神経科と書かれていたので、間違えてしまったのではないかと不安になった(HPはなく、病院紹介のサイトでは心療内科と精神科があるのを確認してきたのだが)。

 意を決して中に入るとすぐに受付があったが、ここで普通の病院に行くと大抵「どうされましたか」と訊かれることを思い出した。ここではなんと言えばいいのだろう。「喉が痛くて」とかは言えるが「なんかもうつらくて…」「メンタルの調子が…」なんて言いづらくてしょうがない。焦りながら保険証を出すとやはり「どうされましたか」の声。「えっ…と」と迷った時間は1秒もなく、「相談ですか」と訊かれた。「はい」と答えると住所と連絡先を書くよう言われ、それで受付は終了した。杞憂だった。慣れた人でよかった。

 口コミで待ち時間が長いと聞いていたのでそこまで気にならなかったがやはり長かった。1時間くらい待っただろうか。適当にスマホで暇つぶしをできたし、1ヶ月以上待つより100倍マシなので気にならなかったが。

 

 先生が一人と看護師といえばいいのか、補助の人が数人の小さい病院だった。相見えた先生は年齢的にはおじいちゃんに近いのだろうが、ヨボついた感じのないしっかりしていそうな人だった。

 症状の説明を求められるであろうことは容易に想像できたため、頭の中では自分がどういったことに苦しんでいるかをわかりやすく説明するプレゼンが出来上がっていた。

 しかし、全く想像できなかったことが1つあった。初対面の人を前にして「死にたい」と言うことにハチャメチャに抵抗感があったのである。さすがに普段は引かれることが分かっているのでみだりに人に言ったりはしない(Twitterは別)が、仲良くしている人には普通に話しているはずなのに。言えない。結果、何やら不必要な前振りをして苦笑されたり、「死んじゃいたいなぁなんて思ったり」と軽い表現でお茶を濁したりした。とりあえず死にたいことと人から怒られるようなことを極端に怖れてしまってつらいことを伝え、そこからはもう頭の中がぐちゃぐちゃであったので、とりあえず聞かれたことに答える、ということに専念した。

 先生からは色々なことを聞かれた。症状のことはもちろん、その症状が起こっているときどういうことを考えているかや、つらいとき映像が浮かぶのかそれとも言葉が反芻されるのかというさらに細かいところ、加えて仕事の内容や家族構成など周りを取り巻く環境など。数ある病名の選択肢の中から1つを見つけるパズルをやっているような感じだった。その間はずっと極端にやわらかいわけではないがきつくもない口調で話してくれたのでとても安心できた。

 

 問診の結果、僕に病名がつくことはなかった。死にたいという気持ちはあるが、趣味をやる気力はあるので鬱というわけではなく、恐怖から来ている感情と予想されるとのことだった。怒られることに対する恐怖への対処法については、なぜ相手は怒っているか、自分はどう何故怖いと思っているかを考察することが必要であるとアドバイスされた。ただそれに近いことは本で読んだ認知療法でやったんだよなぁと思いつつ、それを言い出せないままだった。強い不安をおぼえると吐き気と食欲不振が起こるのだが、それは肩こりからくるものかもしれないとのこと。でもどうやって治せばいいのか。

 死にたいというのはまぁ人間一度は考えるもの、と言われたのでなんか症状軽いと思われちゃったかなぁと思いつつ、軽めの抗不安薬を処方されて診療は終わった。

 待ち時間含めて2時間くらいかかっただろうか。初診料含めて2000円ちょっとを払って僕は病院を後にした。

 

 初めてのメンタルクリニックは思ったよりも普通だった。もっと今後に向けてどうしていけばよいかが分かったり、幸せになる薬がもらえたりするのかと思っていたがそんなことはなかった。医学は魔法ではなかった。

 

 ただ、行って良かったとは思っている。こういう治療があると知ることができ、精神に関する薬が手に入っただけでも収穫だと思っている。この抗不安薬で状況が改善しなければまた病院に行ってそのことを相談すればいい。予約待ちをする必要はないのだから。よく考えれば予約が必要な病院というのが少し特殊で、普通は飛び込みで行くものである。なので、予約制を採用していない、普通のメンタルクリニックがあってもおかしくないということに気づくことができた。

 病院に行くことができて一歩前進したので、何とか普通の人間になりたいものである。

 

 後日談であるが、月曜朝がつらかったので試しに抗不安薬を飲んでみた。結果は不安がある程度弱まったような気はするが、薬の効果なのかどうかまだ確証が持てないような感じである。アルコールの抗不安効果だけを体に取り入れたような感覚があったようななかったような。とりあえず今朝は遅刻しそうである以外は平常心で出勤することができた。1日3回まで飲んでよいとのことだったので、残機が増えたような感じだ。

 

 果たして今後どうなっていくのか。死か幸せのどちらかができるだけ早くこの手に入ることを切に願っている。