くずみーのくずかご

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自転車で会社に行った話

 澄み渡る秋晴れ。少し肌寒いくらいの空気。休みを目前に控えた金曜日。

 

 最高の自転車日和だ。

 

 以前に自転車の長距離イベントに参加して以来、忙しかったのもあるがちょっとおなか一杯気味になっていたロードバイク。最近やっとおなかが減ってきたということで、乗るタイミングを探していたところにこの自転車日和が来てしまっては乗るしかない。

 

 チャリに乗るなら昼間がいい。秋晴れの景色を楽しみたい。ということで、これまでやろうやろうと思いつつもできなかった自転車通勤をやってみることにした。

 

 以前に一度休みを取って予行演習は済ませていた。距離はだいたい12~16kmで、時間は特に急がない状態でだいたい50分ほど。普段は車で通勤しているのだが、朝の混雑のために同じくらいの時間がかかる。

 

 スーツで自転車に乗ると汗もその後に引きずる上にギアの油で汚れたりもするので、動きやすい服装で行き、職場のトイレで着替えることにする。

 

 着替える時間も含めればだいたい1時間ほど見ておけば遅刻することもないだろう。

朝が苦手な僕は、カバンに着替えを詰めるなどひとしきりの準備をして、いつもより早めに眠りについた。

 

 

 翌朝、少し早く起床することに成功した僕は、ロードバイクにしては重いそれを2階の自室から下し、ぼーっとする頭を何とか動かし準備を整えた。家を出る前に2度ほど忘れ物に気づき、階段を上り下りすることになったことが、僕の寝起きの悪さを物語る。ヘルメットもグローブも飲み物も持っていなかったのだ。

 

 出発するころには始業まで50分というところまで時間が経っていた。慣れない準備で手間取ってしまった。

 

 少し飛ばし気味で走り出す。気持ちのいい風が頬を撫で、体を通る。雲一つない青空が突き抜けている。なんと素晴らしい気候だろうか。インドア派の僕もテンションが上がるレベルだ。

 

 時計を見つつ、少し飛ばしめを意識してペダルを回す。速さにして時速約30km付近を保つよう心がける。

 

 息が上がる。筋肉が重い。久しぶりの自転車で、体がなまっていることを実感する。後半、ペースを若干落としながらも、45分くらいで会社に到着する。急ぎ目に着替えれば問題ない。

 

 朝のジョギングなどはできる気がしないが、自転車通勤ならできそうだ。朝の運動というのは気持ちがいいということが分かった。今から仕事であること以外はとてもいい朝だ。

 

 人の少ないトイレの個室に入り、汗を拭き、スーツに着替えることにする。

 荷物を置く場所がないので若干不便だ。荷物かけにかけたカバンを何とか駆使して着替える。

 

 更衣室があれば非常に助かるが弊社にはそんなものはない。悪戦苦闘しながら、かばんをまさぐる。次に着るべきはカッターシャツなのになかなか見つからない。

 

 おかしい。見つからない。こんなに見つからないことがあるだろうか。じわり、と嫌な感覚が体内をうごめいている。杞憂であってくれ、と祈りながらかばんを探る。

 

 しかし、嫌な予感は的中してしまった。そう、僕はスーツで働く職場であるにも関わらず、カッターシャツを持ってくるのを忘れてしまったのだ。あまりに、そう、あまりに大ピンチだ。今の服装は上半身にスポーツ用のぴっちりしたインナーにパーカーをはおり、下はジャージ。どうあがいてもフォーマルとは言いづらい。かばんの中にはカッターシャツ以外の一式、ハンカチに至るまでが完璧にそろっていた。

 

 タイトなスケジュールがトラブルにより遅延し、始業時間は既に過ぎていた。まずい、のんびりもしていられない。どうするかをすぐに決めなければならない。

 

 1時間遅刻する、と会社に電話してどこかにカッターシャツを買いに行こうか。いや、しかし極力遅刻カードは取っておきたい。いつも遅刻はしているが、それは許容範囲内の遅刻なのだ。がっつり遅れるのは避けたい。というか僕は時間通りに職場についているのだ。ただ、カッターシャツがないだけで。

 

 職場にいるのだから直接顔を見せて事情を説明するのが最善策な気がする。しかし、そこまで行くための服がない。と、そのとき目に入ったのは、上着だった。

 

 

 オフィスに来てみると、いつもは朝遅刻してきている先輩が席にいた。不幸中の幸いだ。バカな話を部長にいう必要がなくなる。

 そしてオフィスに入った僕は開口一番、今年度で一番バカみたいなセリフを口にする必要があった。

 

 「すみません…あの、…カッターシャツを忘れまして…」

 

 弊社設立以来、こんなバカなセリフを吐いた人間がいるのだろうか。さながらランドセルを忘れた小学生のようだ。

 僕は、「黒くてぴっちりしたスポーツ用インナーの上にスーツの上着を羽織ることで、“なんか若干おしゃれ気取りの服で来てしまった人”感を出す作戦」を取ることにしたのだった。黒のシャツに黒のジャケット、黒いスーツ用ズボンならなんかいい感じになるだろうと踏んでの作戦だ。僕の服装をどうとらえたかわからないが、先輩は答えてくれた。

 

「ふふっ…えっと、うん、なんかしたいんやね。」

 

 この先輩は本当に察しがいい。遅刻癖だけは全く治らないが、それを完全に許容されるほどの腕の持ち主だ。それほどまでに仕事ができる。色々突っ込みたいことはあったのだろうが、焦っていることを察して話を進めてくれた。

 

「目の前のセブンで買ってきていいですか」

「売ってたっけ?」

「た、たぶん…。なかったらまた考えます」

 なかったらちょっと遠くまで行こう。先に事情を話しているのだからきっと許してくれる。

 

 まずは胸をなでおろし、足早にオフィスを出て、セブンイレブンに向かう。祈りながら店内に入ると…

 

 ある。ドレスシャツ?だったか何だかよくわからないことが書いてあるがこれしかないのだから考える余地はない。サイズも大丈夫そうだし仮に少し小さくても謎の恰好で一日浮いて過ごすよりずっとましだ。

 

 幸いサイズもちょうどよく、さっと着替えた僕はオフィスに戻り、事なきを得た。1日仕事を終え、また自転車にまたがる。

 

なんて疲れた一日だっただろう。

 

もう

 

自転車通勤なんて

 

こりごりだ~~~~!!!!!