くずみーのくずかご

くずみー(Alcard___2cm___)が140字じゃ足りなくなったとき。トップ(http://kzmyalcard2cm.hatenablog.com)

こんな漫画が読みたい。第1話。

1話「変身」

 

その日、亜希は荒れていた。

会社の忘年会でセクハラ被害に遭った。28年間生きてきて初めての仕打ちだ。あの手つきを思い出すだけでも吐き気が、うっ。

胃の底からこみ上げるものはセクハラ被害によるものだけではなかった。得意でもない酒でうっぷんを晴らそうとしていた。転職失敗だったかなぁ、などと友人にぼやきながら。確かに給料も上がり、待遇は前と比べて格段に良くなったが、こんなにひどい酒の席は前の会社では一度もなかった。もう二度とあのオヤジどもとは酒を交わさないと何度も誓いながら亜希は酒をあおり、夜も深まりバスもなくなったこの時間にふらつく足をアパートまで進めていた。

コツコツ、とヒールが規則的に地面を叩く高い音がする。白いコートに身を包み、ショートボブにカットした明るめの茶髪にゆるくパーマをかけた女の子が歩いてくる。

こんな時間に女の子が一人で歩いてるなんて危ないな、と亜希は自分を棚上げしながら思った。自分の横を通り過ぎる女を何となく目で追ってしまう。ふわりとシャンプーの香りがした。風貌からして大学生、バイトか飲み会の帰りなのだろう。かなり整った顔立ちなので非常にモテそうだ。

亜希が再びアパートの方向へと目を向けたその時だった。

「きゃーーっ」

悲鳴だ。さっきの女の子だろうか。振り返ると、女の子はしりもちをついており、その前には、巨大な下半身を露出した男が立っていた。いや、この書き方では語弊がある。巨大な男が下半身を露出して女の子の前に立ちはだかっていたのだ。

守らなきゃ、そう思うが先か、亜希はその男の方に走り出し、女の子をかばうように立った。

 「なによこいつ…」

 男の身長はゆうに3mはあるだろうか。身に着けているものはコート1枚のみ、その前面は解放されており、視線を遮るものは何もなかった。

 「やっちまいな、エグイナー!」

 どこからともなく聞こえた声に応じて、巨大な男が歩を進める。

 「いやぁぁぁぁぁ!!!」

 女の子が悲鳴を上げる。亜希は逆流してきた胃液を吐き捨て叫んだ。

 「死ねや変態男!!死ね!!!!!!」

 その時だった。亜希の胸のペンダントが激しく光った。見るとへたり込んでいる女の子の胸元も強い光を放っていた。コートの上からでもわかる。強い光を受け、巨大な男は後ずさる。

 「二人で手をつないで、『プリキュアレボリューション』と叫ぶナナ!」

 どこからか声が聞こえる。

 「一体何を言って…」

 「いいから早くモモ!」

 「あーもう!どうにでもなれ!ちょっと!手貸して!」

 「えっ、は、はい…」

 「さっきの声聞いてたよね!?わけわかんないことが起こってるんだしとりあえずやってみるしかないわ!いいね!」

 「わかりました…」

 「せーの!!」

 「「プリキュアレボリューション!!!!」」

 先ほどよりもさらに強い光が二人を包む。巨大な男は目を開けていることもできない。光の中で、二人の服装が徐々に変化する。はじけるようにフリルがつき、アクセサリがつき、スカートがたなびいた。

 光が収まるとそこには、極めてガーリーな衣装に身を包んだ二人の戦士がいた。

「滲み出る危機意識!キュアレイジィ!!」

「溢れ出す自意識!キュアセルフィ!!」

「「グローアッププリキュア!!!」」

 ポーズを決めた二人が我に返る。

 「えっ、何この服…」

 「かわいいけどちょっと…」

 「あなたはまだいいけどあたしはこの年でこの服はちょっときつい…」

 「私もさすがにきついですよ」

 とやり取りをしている間に巨大な男が迫る。

 「エグイナァァァァ!」

 「いやぁぁぁぁあ!!!!」

 悲鳴を上げながら逃げる二人。そこに2匹の見たこともない生き物が現れた。先ほどからの声の主のようだ。

 「二人で力を合わせて戦うナナ!」

 ウサギのような風貌の生き物が話す。

 「できるわけないでしょあんなやつ相手に!!!」

 亜希が叫ぶ。

 「二人は今、伝説の戦士プリキュアだモモ!普段では考えられないパワーがあるモモ!!」

 こっちは猫に似た風貌の生き物だ。

 「やってみるしか!ないみたいですね!追いつかれます!!歩幅的に不利すぎます!!!!」

 女の子が息も絶え絶え話しかけてくる。

 「くそー!行くぞ!!」

 半ばやけくそで二人は男のすねを蹴りつける。体から信じられないほどのパワーが沸き起こっているのが分かる。男はすねを押さえて倒れこんだ。

 「おお、この子たちの言ってることは本当だ。」

 「みたいですね。」

 「納得してもらったところで、必殺技を使うナナ!」

 「あいつが動けない今がチャンスモモ!」

 「「必殺技ぁ?」」

 二人が声を揃える。

 「そう、二人で手をつなぐナナ。そして相手が爆発するイメージを強く思い浮かべるナナ!」

 「二人で心を一つにして、必殺技を叫ぶモモ!」

 何が何だかわからないが、これまでの経緯を見るにやってみるしかなさそうだ、そいう認識が一致し、二人は手をつなぎ、目を閉じる。

 「いくよ!」

 「はい!!」

 「「プリキュア!ダーティエクスプロード!!!」」

 二人の指先から放たれた銀色の矢が男のもとへと一直線に飛んでゆき、胸を貫いた。その刹那、矢は激しい光を発し、爆発した。巨大な男も爆発四散し、辺りに肉片が散らばった。

 「おえ…」

 女の子が目を背ける。が、やがて肉片は黒い煙となって立ち消えてゆき、そこには普通サイズの露出狂だけが残った。

 「プリキュア、やったナナ!!」

 「この力はいったい?」

 亜希が尋ねる。

 「伝説の戦士プリキュアモモ!この世界に悪いやつら、エグイナーが侵略してきているモモ。それに対抗できるのはプリキュアしかいないモモ!」

 二人の体を再び光が包み、元の姿に戻る。

 「なにそれ、あんなのとまた戦わなきゃってこ・・・うっ」

 亜希が用水路に駆け寄る。足元もおぼつかないくらい酔っていたことを今思い出した。びたびた、と半固形のものが地面に落ちる音が響く。

 「あぁー…ハイ、私水持ってるんでどうぞ。大丈夫ですか、おうちどっちですか。」

 「あっち…もうすぐのコンビニを、おっ…ぼぼろろろ」

 「ちょっと行く末が心配になってきたナナ」

 「……し、信じようモモ」

 

 

to be continue...?